はじめてのツール・ド・おきなわ

 

7.5 節 ツール・ド・おきなわ市民  (加筆)


レースタイプというわけではないのですが、「市民レーサーの甲子園」ことTour de Okinawa(以下、TdO)の市民レースは、普通の公道レースと少し違った面もあるので、ここで少しだけ解説します。

 

まず、いままでレースに出た経験のない方がいきなりTdOに出場するのはちょっと無謀です。これはサイクリング大会ではなくてかなり厳しい「レース」です。集団が何百人と大きいのも特徴です。なぜかコース上の道路工事箇所が多く、しかも毎年その場所が変わります。雨が降ると石灰岩が用いられているという沖縄特有の舗装道路は非常に滑りやすくなります。そのため、他の市民レースに比べても落車が多いです(これに匹敵する不安定で危険な集団は、8月末のシマノ鈴鹿ロードレースかもしれません)。


沖縄の景色を楽しみながらゆっくり走りたい方は、前日また当日に長距離のサイクリングが行われていますので、そちらをお勧めします(本島一周サイクリングはそれはそれで体力がいりますが)。


50 kmのクラスは本部半島の本部町・今帰仁村の海岸線をぐるっと回って名護市のスタート地点に戻ってきます。平坦基調のコースと言われていますが、実際には短い登りがいくつもあるので真っ平らというわけではありません。何百人もの集団の後ろに方にいると、途中で「中切れ」が起こっていてもわかりません。そうするといつの間にか第2集団、第3集団で走っていることになり、入賞とは程遠くなります。上位でのゴールを狙うなら、とにかく集団の先頭が見えるくらいの位置をキープするのが大事です(これはどんなレースでも重要)。


ゴール手前5km付近にある通称「イオン坂」が最後の坂です(100, 140, 210 kmクラスも同じ)。ここを集団で越えると、ほとんどの場合集団ゴールスプリントになります。沖縄のゴールスプリントでは毎年必ず落車が起こります。入賞狙いの集団ではない、後ろの集団ですら焦って落車する人がいます。その原因はほとんどの場合、ゴール前の「斜行」です。開いているスペースに無理に斜めに入ると後続の選手とラインがかぶって接触、落車となるので大変危険です。また、苦しいからといって下を向いてスプリントしてはいけません。前を見て「真っ直ぐ」走りましょう。また、ゴールラインを通過した直後にフラフラと走って落車する人もいます。ゴールしてもしばらく気を抜かないように。


自信がなければあえてスプリントに加わらないというのも一つの考えです。怪我をしては仕事や学業に差し支えますからね。安全第一でお願いします。ゴール前のコースやゴールの位置は毎年のように変わります。前日までにしっかり確認しておくことをお勧めします。


コース上の工事区間は毎年場所が変わり、クランクやダートがあったり、コース幅が急に狭くなったりします。できれば、前日に車ででも試走しておくことをお勧めします。集団の先頭の方でそのような危険箇所に入る場合は、手信号や声で注意を喚起するというのは普段のサイクリングと同じです。


100km以上のクラスで完走するには、途中に何カ所もある「関門」を時間までに通過しなければなりません(50kmクラスではまず時間切れにはならないでしょう)。そこで、「赤旗」を振られて係員に降ろされると「ゲームオーバー」です。あとは、主催者が用意したトラックにバイクを乗せ、交通規制が解けた後にバスでスタート地点まで戻ってくることになります(ゴールが近い場合は自走が許されることもありますが、係員に必ず確認してください。ゼッケンを外せ、と言われると思います。おそらくパンク修理セットや替えチューブを持っていないと思いますので、自走にはパンクリスクがありますのでご注意を)。バスの中はお通夜のように暗い雰囲気で、これはかなり悲しいです(経験者談(^^;) )。そうならないためには、たとえ先頭集団に残れなくても、その後ろの第2、第3集団などできるだけ「速い人が多い、大きな集団に乗る」というのが一番大事です。


最大のポイントは通称「ダムの登り」です。標高差300m、所要時間17〜25分ほどの普久川(フンガワ)ダムの登りを1回(100 kmコース)、もしくは2回(140 km, 210 kmコース)登る間に選手の力に応じて自然と大小の集団に分かれます。ダムの登り口は鋭角コーナーになっていますので、落車に注意です。できるだけ前の方で登りに入るのがポイントです。100kmコースの場合は、辺戸岬から南下してくる海岸線の間で集団内の位置を上げる(前の方に移動する)のが理想ですが、多くの選手が同じように考えてペースが非常に速くなる場合もあります。140kmコースの場合は、スタート直後の2つのトンネルの後に登りが始まります。


ダムの登りは、最初平坦ですが、すぐに勾配がきつくなります。6-7%くらいでしょうか。途中、もっと勾配がきつくなるところもあります。登り切ったあと、一旦下ってまた登り返しがあり、水・スポーツドリンクの補給所があって、T字路にぶつかります。補給所は登りの途中にありますので、フラつきや、落車に注意です。


ダムの登りの最後に、前方に集団が見えたら、頑張って追いつきましょう。そのほんのちょっとの「もがき」が完走できるかDNFかの分かれ道になるかもしれません。もし、小さな集団だったら、下りはできるだけ踏み、登りは集団がバラバラにならないように上手く回しましょう。誰か仕切り役の選手がいればいいですが、そうでなければ、あなたが自ら選手をまとめあげなければならないかもしれません。千切れ集団は運命共同体です。他の選手に引かせるだけでなく、自分もローテーションに協力しましょう。


そうこうしているうちに前の集団や選手を吸収してだんだん大きな集団になります。そうなるとシメたものです。逆に、一人で頑張って走っている状態が長く続くのはよくありません。時々、後ろを確認して選手が来ていないか確認しましょう。もし、一人でも二人でも来ていたら、すこし脚を緩めて合流して、協力するべきです。多くの場合、こちらが抜かす選手は消耗しきっていてペースが合わない場合もありますが、後ろから来る選手は脚が残っているのでなんとか一緒に走りましょう(ただしクラスが同じ場合)。


100, 140, 210 kmコース途中に何カ所もある下りは雨の日は要注意です。過去、少なくない数の選手が落車しています。中には崖下に転落された方もいます。畳が置いてあるコーナーもあります。しかし、どのコーナーもそれほどタイトではないので、不用意にバイクを傾けたり、急ブレーキをかけたり、白線の上に乗らなければ滑ることはまずありません。また、辺戸岬から南下する際に通過するいくつかのトンネルも過去大きな集団落車が発生したポイントです。トンネル内ではラインの変更、スピードの上げ下げや急ブレーキは厳禁です。トンネルにはできるだけ集団前方で入る方がよいです(しかし、どの選手も同じことを考えるので、トンネル前には集団のスピードが上がってやや不安定になることがあります)。


TdOはやや特殊なレースで、公道の一本道を時間差をつけていろいろなクラスの選手が走っているのですが、そのためしばしば違うクラス(例えば、210 kmと140 km)の集団が入り混じってしまいます。もし、自分のクラスの集団が違うクラスの速い集団に追いつかれたら、左側に寄って道を譲りましょう。その速い集団の後ろに付いて行ってしまうのは、ルール違反なのでやめましょう。レース終盤、後ろの方のグルペット集団では、違うクラスの選手が混じって完走を目指すことはやむをえません。


しかし、勝負がかかっている先頭集団(オフィシャルのバイクが先導しているので分かるはずです)やそれを追走しているメイン集団に絶対に混ざってはいけません。違うクラスの追走集団に乗って、自分のクラスの逃げ集団に追いつく、というシーンが過去なんども見られますが、これはレースを面白くなくするので絶対にやめましょう。


補給所について補足します。コース上、ダムの登りの最後や慶佐次など何箇所かに水、ドリンクのボトルを補給してくれるところがあります(受付時にもらうマップを確認してください)。初心者は走りながらドリンクのボトルを受け取ることに慣れていないと思います。補給所が近づいたら、周りを確認して左側に寄ってください。急にラインを変更すると後ろの人が

斜すってしまうかもしれません。自分のボトル(捨ててもよいボトルを持っていくこと)を補給員の足下に捨てます。網を張ったボトルを捨てる場所がある場合(2012年にはありました)は、そこに投げ入れます。補給員が「水!」「スポーツドリンク!」と叫んでいますので、自分の欲しいものを受けとります。スポーツドリンクはかなり「薄め」です。ときどき、ボトルの蓋がちゃんと閉まっていないことがあるので飲むときに確認しましょう。補給員は何人も立っていますから一度受けとりに失敗しても焦らないこと。走りながら受け取るのが無理でしたら、一旦止まってもよいのです。周りの選手のペースや自分の脚の残り具合をみて、数秒止まっても乗り遅れないのであれば止まってもかまいません。


最後に、「コース上にゴミを意図的に捨てないでください」。レース後、補給食のパッケージなどが散乱しているのは悲しいことです。それを掃除する地元の方の気持ちになりましょう。